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考えていることが勝手に誰かに伝わってしまうことはありえるのか? 脳の研究や言葉を持たない生き物から考えるその可能性
2019.03.14
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今、自分が考えていることが周りの人に筒抜けだったら……。
漫画や映画の題材として扱われる「思考が一方的に相手に伝わってしまう」という現象。こういったものはフィクションの世界のものだが、ふと「もし本当だったら」と考えてしまい、眠れぬ夜を過ごしてしまう人もいるのではないだろうか。
言葉や表情を介さずに他人に思考が伝わるという現象は実際に起こり得るのか、脳に関連した研究や言葉や表情を持たない生き物たちのコミュニケーションからその可能性を探ってみよう。
目次
◼️ 思考の仕組み
◼️ 言葉以外で意思を伝達する生き物
◼️ 思考を他人の脳へ直接送信する実験
◼️ 病気としての「テレパシー現象」
◼️ 思考が勝手に誰かに伝わることは……
思考の仕組み
Credit: Creative Commons
人は脳を使い思考する。脳内の細胞から細胞へ電気信号が伝わり、「考える」ことができるのである。この電気信号は睡眠時の夢を見ることにも作用している。
最近では、「考える」際の脳の働きは、立ち上がったり歩いたりする体を動かすための脳の働きと共通のものであるという研究結果が報告されている。だが、実際に体を動かす際、脳の中でどのように働いて複雑な指示を出しているのか、わからない部分はまだまだ多い。
言葉以外で意思を伝達する生き物
人は脳で思考し、主に言葉や顔の表情を介して意思を伝達するが、他の動物はどうだろう。
人間の近くにいる動物、犬や猫も、顔の表情や声のトーンで意思を伝えようとする。これは視覚と聴覚の情報をお互いが思考することによって成り立つコミュニケーションである。
Credit: Creative Commons
では、表情が変わらず、声も出せない昆虫はどうなのだろうか。例えば、一部のアリは、体から分泌される情報化学物質「セミオケミカル」でコミュニケーションを行う。セミオケミカルは、同じ種同士に作用する「フェロモン」と異種に作用する「アレロケミックス」があり、その化学物質の情報が伝わることで相手の行動を変化させるのである。
植物も、音などでコミュニケーションを取っていると言われる。イタリアの植物学者、ステファノ・マンクーゾ氏の研究では、植物の細胞が成長する際に、コウモリやクジラのように反響音によって周囲の状況を確認するエコーロケーションを行なっていることが示唆されている。また、トウモロコシは根からは220ヘルツの低周波が出ており、これを聞かせることで根が音の方へ近づいてくることも判明している。そのほかにも、根を通して化学物質によるコミュニケーションを行なっている可能性があるとしている。
これら化学物質などでのコミュニケーション方法は、相手に伝わる情報が限定されたものとなる。人間の思考のような複雑な情報を正確に伝達することは難しそうだ。
思考を他人の脳へ直接送信する実験
Credit: PLOS ONE
2014年に、思考をデータとして遠くにいる他者の脳に直接送るという実験が行われている。
これはハーバード大学医科大学院の教授、アルバロ・パスキュアル=レオーネによる研究で、ロボットアームや車椅子を脳波で操作する技術「EEG」と、小さな電流で脳の一部を刺激して特定のニューロンに影響を与える技術「TMS」を組み合わせて行われた。
実験では、人の頭に装着されたEEG装置が脳波を記録し、コンピューター上でエンコードしたのちにインターネット経由で送信、受信したコンピューターからTMSにデコードされた情報が送られ、相手の脳に直接伝えられた。
最初の実験では、インドにいる送信者が、「Hola」「Ciao」という言葉(スペイン語とイタリア語のこんにちは)を思い浮かべ、それをデータとしてフランスの受信者に送られた。8000キロ離れたフランスで受信した3人のボランティアは、そのメッセージを正しく受け取ることができたという。スペインとフランスで行われた2回目の実験ではメッセージのエラー率は15%程度で、そのほとんどがエンコードでのエラーではなく、デコードによるものだったそうだ。
実験は成功したが、ここで実証されたのは装置が読み取った脳波の情報を他人に送れたということであり、複雑な意味を持つ人の思考をそのまま送れることが実証されたわけではない。
病気としての「テレパシー現象」
Credit: Creative Commons
自分の考えが他人に勝手に伝わっている、誰かがテレパシーで話しかけてくるなど、幻覚や幻聴なのに現実だと確信してしまう病気がある。
「統合失調症」といわれる精神疾患では、陽性症状になると「誰かに狙われている」「盗聴されている」「他人の考えが自分の頭に入っていく」「誰かに自分の考えが伝わってしまっている」といった、通常はあり得ないことを信じこんでしまう状態になることがある。
この病気は、日本では100人に1人は発症すると言われており、10代後半から30代にかけての発症が多く、40代以降には減っていくとされる。なぜ人が統合失調症になるのか原因はいまだ特定できていないが、発症した患者の脳には、神経細胞同士に情報を伝える神経伝達物質の変化と、前頭葉や側頭葉が健康的な人と比較してやや小さくなっていることが確認されている。(脳の構造の変化は、健康な人と比較して顕著な差が出るわけではない)
神経伝達物質の変化では、ドーパミンが過剰に分泌されているために幻覚や妄想が現れるとされており、最近の研究ではグルタミン酸やセロトニン等の他の神経伝達物質も症状に関係しているとみられている。
思考が勝手に誰かに伝わることは……
結論としては、自分の考えていることが勝手に誰かに伝わってしまうことはなさそうだ。「もしかすると」を考えて不安に思っていた人は安心していいだろう。
しかし、すでに装置を使った脳波の送受信が成功していることから、人の「思考」を正確な言語や映像としてそのまま誰かの脳に伝える技術は、そう遠くない将来に登場する可能性は否定できない。
そんな未来が来たとき、言語や表情に頼っている私たちのコミュニケーション方法は大きく変わってしまうかもしれない。
Text by Daisuke Sato
関連リンク
朝日新聞(脳は考えるためではなく、動くためにあった)
PLOS ONE (Conscious Brain-to-Brain Communication in Humans Using Non-Invasive Technologies)
「協調と制御」領域 本田 学(考える脳・動かす脳・感じる脳 )
LiveScience (Mind Messaging: Thoughts Transmitted by Brain-to-Brain Link)
昆虫のケミカルコミュニケーションの生物学 社会的適応行動の発現機構
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