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人が死ぬと体から消失するという「21グラム」は本当に魂の重さなのか

2019.04.11

トピックス

ジャンル
サイエンス
エディター
Daisuke Sato

人は死ぬと、その体は21グラムだけ減るという。

この体から失われる21グラムは魂の重さではないかとして、映画や日本のコミック等でも度々取り上げられているものであるが、どのような経緯で言われるようになったのだろうか。

体から消失する21グラムは本当なのか、人の体には魂と呼ばれるものが存在するのか、この不思議に迫ってみよう。

目次

  • 死ぬと消える「21グラム」の謎
  • 魂は本当にあるのか
  • 人の意識は死ぬとどうなるのか
  • 魂の形とは


死ぬと消える「21グラム」の謎


Credit: パブリックドメイン

人が死ぬと体から21グラム失われるというのは、1901年にマサチューセッツ州の医師ダンカン・マクドゥーガルが行なった研究発表によるものだ。人の体には魂が宿っており、ある程度の重量を持つはずだとの説を唱えたマクドゥーガルは、死期が近い被験者の死亡前後の体重を計測することで証明しようとした。

研究では、マクドゥーガルは死期が近い高齢者養護施設の結核患者4名、糖尿病患者1名、症状不明の患者1人、計6人を被験者としてを観測を行なった。重さを記録するために、わずかな重さの変化も計測できる特殊なベッドを用意し、死の直前・死の瞬間・死亡後の変化などを記録した。

被験者の1人は、死亡後すぐに3/4オンス(約21グラム)体重が軽くなったとされる。一部の被験者の体重は瀕死時、呼吸による体内の水分の揮発や発汗によって毎時1オンス(約28グラム)減っていたが、マクドゥーガルはこの最終的に体から失われた21グラムは魂の重さであったと結論づけ、発表に至ったのである。また、一部の被験者は体重の増減に時間差が生じたが、これは人によって魂が体を離れるタイミングが遅いからではないかと主張した。

マクドゥーガルは、魂は人間のみにあるもので他の動物にはないと考えていた。15匹の犬を使った実験では、人間と同じように測定をしても体重に変化は見られなかったことから、魂がないことの証明だとした。この実験では死期が近い犬を用意できなかったとの記録から、健康な犬を用いた、現在では倫理的に問題とされる方法で観測を行なった可能性が示唆されている。

しかし、発表されたマクドゥーガルの観察結果は被験者によってバラツキがあったために新聞などはその信憑性には疑問があるとした。被験者の1人は確かに死亡した後に21グラムの体重の減少が見られたが、他の患者は、1/2オンス(約14グラム)減少した後にさらに1オンスの減少が見られたり、体重が減少した後にまた増加していたり、不手際によって観測できていなかったりしていたのである。また、体重に変化がなかった被験者もいたとされる。

さらには、他の研究者が再現できなかったことや、マクドゥーガルが体重の変化が起こらなかった被験者の言及を避けていたことも批判の的となった。「人間にのみ魂が存在する」という前提のもとに行われた研究であったため、その判断に曇りが生まれたのかもしれない。

魂は本当にあるのか


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古代ギリシャの時代は、人間には魂が存在すると考えられ、生命と綿密に結びついた実体がないものだとされた。呼吸も魂も「expiration(呼気)」という観念で扱われ、人が死ぬと呼吸とともに魂が体を離れると考えられていたのだ。古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、様々な生き物には様々な種類の魂が宿っていると考えていた。それは動物に限らず、植物も含まれる。

現在、放射線を用いることで人間の脳や体の中をのぞくことができるMRIやCTがあるが、魂とされるものは今だに体のどこからも見つかっていない。もちろんそれは、魂に実体がないと仮定した場合は存在しないという証明にはならない。何をもって魂とするかという問題もあるが、その存在自体を完全に否定することはできないのかもしれない。

人の意識は死ぬとどうなるのか


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一般的に、心肺が永久的に停止したことか確認された状態が「死亡」とされる。心臓が止まり、肺が呼吸を止めると、酸素の供給が止まった脳の細胞は一斉に活動を停止する。脳内の細胞は少しの間活動しようとするが、電気信号の伝達はこの時点で一斉に止まってしまう。つまり、人の意識はここで終わってしまうのだ。

「魂」と呼ばれるものが脳の電気信号によって得られる人の意識と紐づいていると仮定するなら、その電気信号が体の外に出ることはあり得るのだろうか。脳の中の電気信号はニューロンと呼ばれる神経細胞の間でやりとりしているため、体の外にその電気信号が放出されるということはまず考えにくいだろう。

もしかしたら将来的に、なんらかの機械を用いれば脳の電気信号を維持し続けることは可能になるのかもしれないが、それはまだサイエンスフィクションの世界の話である。だが、ニューロンを解析し、人の記憶を保存する研究は世界中の研究機関で行われており、そういったフィクションが現実になる可能性は高まってきている。

魂の形とは


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現在の人間が持つ「魂」という観念は、さまざまな宗教的な価値観によって構築されているものがほとんどだ。そしてマクドゥーガルが主張した、人が死んだ後に体から21グラム減少すること、それが魂の重さであるということは、第三者によって再現できない限りは正確な研究結果であったと認めることはできない。

しかし、宇宙と同じくらいわからないことが多いとされる人体のことだ。将来的に研究で明らかにされるものもまだたくさん出てくるはずである。魂の存在についても、いつかは解明されるときがくるかもしれない。

Text by Daisuke Sato

関連リンク
The Conversation (Whatever the soul is, its existence can’t be proved or disproved by natural science)
Snopes (Weight of the Soul)
LiveScience (How Much Does the Soul Weigh?)
Terminal spreading depolarization and electrical silence in death of human cerebral cortex (Annals of Neurology)
nature (Memory-saving devices snag US research funds)

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