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新しい大学の在り方 ~ 多様な学習ニーズに対応した 「分野横断型の専門教育」とは 龍谷大学理工学部長(先端理工学部長就任予定) 松木平淳太氏に伺う

2019.03.01

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受験の先にあるものとはなんだろう。

小学校受験をくぐり抜けて国立や私立に通った人もいるだろう。中学か高校のいずれか、もしくはどちらも受験するために学校と塾の勉強を両立した人もいるだろう。そしてそのさらに先には大学受験という人生の大きな分岐点が待ち受けている。

現代社会の情報化に伴い、わたしたちは自ら歩むべき道を主体的に選び取ることができるようになった。自分らしく生きていくために、また自分の能力を最大限に引き出すために、受験という大きな難関を乗り越えてでもわたしたちは大学をめざす。

一生をかけて取り組みたいライフワーク。それをサポートしてくれる熱い教師陣。社会に出る一歩手前のところで希望や不安を分かち合い、互いに学んだことを強化し合える仲間たち。受験の先にあるものとはそれらとの出会いにほかならない。

さらに大学の先にあるもの、それは社会だ。10年後、50年後、100年後の未来に理想的な社会は実現しているだろうか。そして、その未来に到達できるように今しておくべきこととはなんだろうか?

そのような「バックキャスティング」とも呼ばれる未来逆算思考を積極的に取り入れようとしているのが龍谷大学だ。

2020年4月には新しく先端理工学部の新設が予定される。その革新的な取り組みについて、現理工学部長で同学部の学部長に就任予定の松木平淳太氏にお話を伺った。

 

◆「未来逆算志向型」の革新


――龍谷大学に先端理工学部の新設が予定されます。新しい学部に変わる意図とは?


社会の情勢は常に激しく変化しています。特に日本は課題先進国と言われ、少子高齢化や環境など、いろいろな問題があります。


今まで理工学部として教育研究をおこなってきたのですが、情報化社会の進展、グローバル社会の進展など、いろいろと考えなくてはならない課題が多い中で、従来の大学の在り方ではなかなか対応できないと考えました。今までの大学はまず先生方の研究分野があり、そこからスタートしてカリキュラムを構築していくという形でした。


教育プログラムの在り方をゼロから考え直す必要がある。我々はそう考え、社会的課題から出発してそれに対応する教育プログラムを設定し、その教育プログラムを構成するにはどの専門分野と繋がるのかという視点でカリキュラムを考え直したのです。


具体的には25のプログラムを用意しました。「プログラム」というのは特定のテーマに関連する科目を20単位程度でパッケージ化したものです。


人工知能、IoT、データサイエンス、航空宇宙など、現代の様々な先端技術に関するプログラムを設定し、学生さんはそれぞれ興味があるプログラムを自由に選べます。また、25のプログラムを支えるために、数理科学、情報科学、化学、電子工学、環境工学、機械工学等を学ぶ6つの「課程」があり、ここで理工学のベースをしっかり身につけます。


プログラムは履修した先にどのような職業が想定されるかを意識して設計されていますので、学生さんが学んでいく中で将来の進路のイメージが自然に形成されることも期待されます。


また、プログラムは異なる分野の学生も学ぶことができるよう横断的な学びを促進するカリキュラムとなっており、これが先端理工学部の大きなポイントの一つです。


大学に入る時点ではどの分野を選ぶか迷ってしまうという学生さんもいらっしゃいますが、プログラムを通じて異なる分野を勉強できるのは非常に魅力的ではないかと思いますし、社会でも能力が発揮できると考えています。


二つめのポイントは、そのようにカリキュラムを整えたうえで、学生さんが主体的に学び、その学びを社会に応用できるように3年次に主体的活動期間を設定したところです。


学びが学内に留まるだけでなく、例えば海外留学であったり、企業でのインターンシップであったり、地域でのボランティア活動であったり…と様々なところで学生さんが学んできたことを活かせる仕組みを整えました。


従来の理工学部系の大学ですと実験や演習等の必修科目がたくさんあってなかなかそういった活動をしづらかったのですが、必修科目を3年生の特定期間に配置しないという形をとり、約3ヶ月の間、自由な活動ができるようにました。


主体的活動期間に教室だけでは学べない様々な体験をしてもらうことで、本学の「建学の精神」を出発点とした倫理観を持つ技術者、また社会課題の解決にあたる人材を育成したいと思っています。


――学部のカリキュラムを一新するのはなかなか難しいと思いますが、なぜそこに着目したのでしょうか?


新しいカリキュラムを作るにあたって、大学生や卒業生の方々にアンケートを取りました。すると、やはり専門領域はある程度身についたものの、もっと勉強しておけばよかったと後悔する声もありました。例えば、工学系の学生であっても情報系のことをもっと勉強しておけばよかったというような声もあったので、その調査結果がベースにあって変えようと。


もちろん、今まで理工学部として30年間続いてきた考え方を逆転するというのは非常に大きな変化なので、色々な議論がありました。


今まで培ったものが失われる危険性も懸念され、1年半以上の時間をかけて綿密に議論しました。その結果、やはり今後の社会の変化を考えると「変えよう」という決意が先立って、今回新しい学部を作ることになったのです。

◆一人ひとりの可能性をフルに発揮


――学部の名前が先端理工学部に変わりましたが、そこに込められた思いは?


理工学部から先端理工学部へと名前が変わったのには先端技術にフォーカスしていこうという思いがあります。


先端理工学部という名前を決める際にも色々な議論がありました。トップの人だけを育てて他の人は置き去りにされてしまうような印象もあり、それが本学に馴染むのかという指摘もありました。


我々が言う「先端」には、むしろ一人ひとりが一歩前に出てそれぞれが問題解決の先端に立つという意味合いがあります。そういう意味で、全員が先端なのです。


SDGs(持続可能な開発目標)の中に「誰一人として取り残さない」という言葉がありますが我々も同感です。同じ物差しで比べるのではなく、色々な分野において先端であり、それぞれの先端の人たちがお互いに共同して社会問題の解決にあたるいう意味での先端だと考えています。


――時代が目まぐるしく変わっていくなかで、今後どのような分野が伸びていくのでしょうか。


例えば航空宇宙プログラムは今後伸びていく分野ですし、人工知能、環境問題、自動運転なども発展していくと期待されています。


各プログラムを作るにあたって新しい先生をお呼びしたり、いままで個別に研究を行ってきた先生方同士の連携を強化したりしています。たとえば、環境問題にはデータサイエンスという視点を組み合わせて社会課題の解決方法を考えたり、自動運転は単に機械工学だけでなく、電気電子系、情報系、応用科学系の先生方が一緒になって一つの課題に取り組むといった点が魅力です。

◆主体的な学びの場


――学生には他にもどういったところを魅力に感じてほしいですか?


まず先生方の研究レベルが世界的にも非常に高いことは学生さんに魅力を感じていただけるポイントです。


例えば、環境問題を考えるうえで現場に行くことは大切ですが、アフリカの湖に潜って生き物の生態を調べている行動派の先生もおられます。ノーベル賞を受賞した化学者と共同研究をされている先生もいらっしゃいますし、企業との共同開発に携わるなかで実際製品の実用化に貢献されている先生や、特許を持っている先生も。多才で多様な先生方がいらっしゃるので、学生さんにとって楽しい学部なのではないかと思っています。


学生さんが自分で主体的に学ぶ活動の場を学内に整備したのも大きな魅力かなと思います。


従来、設備や施設はどちらかというと先生が管理しており、学生は決められた時間内でしか使用できませんでしたが、学生さんが自由に使えるような施設を構想中です。


具体的にはセミナーやグループワークなどに適した「フリーエリア」と、簡単な作業などに適した「Fabエリア」を設置し、初心者でも扱いやすい3Dプリンター、レーザー加工機などの簡易な工作機械を設置するほか、ものづくりの協同作業スペースを併設することを検討しています。



キャプション:STEM版コモンズ(仮称)
 
異分野の学生がディスカッションをしながら共同で新しいものをつくっていくスタイルを在学中に経験しておくと、社会に出た時により活躍していただけると我々としては期待しています。異分野、多分野間の交流は、今後企業でも必要とされる考え方ですし、多様化している現代においては、社会も変化が求められています。学生さんがいわば先端となって社会を変えていくことが大事だと思います。

◆異分野間の学び合い


――異分野を組み合わせて考えることが社会に求められていると思いますが、そこに対応していくということでしょうか?


例えばAI技術というのはそれ自体が専門分野として高い価値を持っていますが、さらに色々な分野で応用できるのではないかと言われていますし、それが社会課題の解決にも繋がるとも言われています。


社会課題には色々な問題が複雑に絡みあっています。全体を見渡してそれぞれの専門領域を発揮できる人が関わっていくのが重要ですが、やはり他分野への理解がないとお互いうまくやっていけません。例えば化学系の学生であっても人工知能のことを知っておいたほうが仕事をしやすくなるでしょう。


――先端理工学部の学生はどのような教育やサポートを期待できますか?

そうですね、やはり初年次は基礎的なことをしっかり教えていきます。例えば今回のカリキュラムでまず身につけてもらうのは表現力ですね。自分の考えていることをうまく表現することは大事ですので、そこはしっかりと準備します。


「理工学のすすめ」という科目も用意しているのですが、そこでは先生方の専門を社会課題に関連づけて紹介したり、企業の方をお招きして実際の現場でどういった課題があり、それを解決するために理工系の学問分野はどのように期待されているかをお話ししていただきます。初年次でまずきっちりと問題意識を持つところからスタートします。


また、合わせて技術者としてしっかりとした倫理観も身につけます。


2年次には、所属する「課程」で各分野の基礎的な学びを深めます。他の分野に興味を持ち学ぶことは重要ですが、まずは自分自身の専門性を身につけ、深めることが前提です。また、先端理工学部独自の海外研修として、ベトナム・シンガポールで10日間学ぶ「ASEANプログラム」を用意しています。約40人の学生が、現地大学生との共同PBLや工場視察、ビジネスパーソンとの交流などを体験しますので、色々な気づきがあることでしょう。


3年次でそろそろ自分のやりたいことが芽生え、学生さんが「自分はこういったことがやりたいんだけど、どうでしょうか?」と相談を持ち掛けてくるようになると嬉しく思います。4年生になる頃にはもう社会人一歩手前ということで、先生と対等に自分の意見をしっかりと言えるまでに成長しています。


1年次、2年次、3年次、4年次の成長の課程に合わせて我々教員も関わり方を変えています。従来と違い、今回の新しいカリキュラムにおいては一律に成長してくださいということはありません。それぞれの個性に合わせて得意なところは先に延ばして、一人ひとりの成長度合いに合わせてサポートしていくことが重要です。また、少人数制の教育で学生との接点を増やすことも考えています。


――最後に、龍谷大学で学ぶ上での倫理観とは?

本学は仏教系大学ですので、やはり「命を大事にする」というのが根本にあると思います。


先端技術は色々な使い道がありますが、ただ単に技術を突き詰めるところまで突き詰めて社会的影響を考えない、ということではなく、やはり社会的影響を考えながら技術を考えてほしいと思います。


高度成長期の競争社会においては皆が同じ物差しで測られて、一番二番を競ってきたわけですが、そういうことではなくて、人それぞれ違って構わないし、それぞれの人が先端になるということを教えていきたいと考えています。そして、一人ひとりがバラバラに頑張るのではなく、やはり一緒に共同して色々なことにチャレンジしていくということが大事なんだと伝えたいですね。


龍谷大学HPは こちら

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