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古代人が痛飲していたビール!アルコール飲料は古代の生活では必需品だった

2018.11.01

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現在、世界中で生産されるビールの量は1億9000万キロリットル。

ヨーロッパの国々では、一人当たりの年間平均摂取量が60リットルにもなる。ちなみに、日本は40リットルほど。

ところで、古代エジプト人は平均して一日半リットルのビールを消費していたという。これは、祭事などに飲む大量のアルコールは含まない計算となるため、年間のビール摂取量は200リットル近かったと推測されている。当時の生産技術と量を考慮すると、これはとんでもない数字である。

そして、ワインと比べるとより庶民的な飲み物であったところが現代と変わらないのも興味深い。

ワインよりも消費が多かった?古代のビール


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近年、遺跡から発見される容器や陶器に残る食物の痕跡から、古代の食生活についての詳細が明らかになることが多くなった。ローマ・ラ・サピエンツァ大学考古学部教授ウンベルト・リヴァディオッティによれば、古代世界でビールを大量消費していたのはエジプトに限らないという。紀元前4世紀にはその存在が確認されるビールは、コーカサス山脈付近、イベリア半島、ドイツの森林地帯でも食生活の一部となっていた。

リヴァディオッティ教授によれば、地中海世界の飲み物といえばワインがまず頭に浮かぶが、実際には古代の下層階級が日常的に引用していたのはビールであり、消費量もビールを超えていた可能性も否定できないという。

古代のローマでも、大麦や粟を発酵させたビールは各地で生産されていた。ブドウを原料とするワインと比べると、穀類から作られるビールは女性たちが気軽に自宅で生産できるドメスティックなアルコールでもあった。

特に、井戸や貯水槽の水が病気の感染源となる可能性があった当時、ビールをはじめとするアルコール類は老若男女が飲用する生活必需品であった。ただし、ホップが使用されていなかった当時のビールは、現代のそれとはだいぶ様相を異にしていたことはまちがいない。

古代のビールvsワイン 度数や価格の相違とは


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古代のビールが現代のそれとは違っていたように、ワインも飲み方からして相違があった。古代のワインは水で割って飲むのが通常で、気で飲む人は「大酒飲み」とされていた。五賢帝の一人、トライアヌスの不徳のひとつがこの「ワインを水で割らずに飲む」習慣であったという。

一方のビールは、アルコール度数が4パーセントから10パーセントであったため、水で割らずに飲むのがふつうであった。アルコール度数が15パーセントほどであったと推測されるワインと比べると、物足りなさがあったのだろう。ビールの価格も、最も安価なワインの4分の1ほどであったことがディオクレティアヌス帝の時代、つまり4世紀初頭のアルコールリストから判明している。また、ワインと違いビールは保存が効かなかったことも評価が低い理由であった。

古代のエジプトではあらゆる村々にビール売りがやってきてはビールを売っていたようだが、古代のローマでは寒冷地や山岳地でよりビールの消費が大きかった。そのため、「ビールを飲む人」=「いなかっぺ」というイメージも存在したようである。

4世紀中ごろのローマ皇帝ユリアヌスは、「ワインは蜜の芳香、ビールはヤギの悪臭」と語っている。また、4世紀のローマ皇帝ウァレンスはアナトリア半島を包囲中に当地の人から「ビール野郎(Sabaiario)」という蔑称がつけられた。ウァレンスは、ビールが日常的に飲まれていたバルカン半島の出身であったためだ。

ローマ軍御用達の「ビール」


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広大なローマ帝国の防衛を重要視した五賢帝の一人ハドリアヌスは、在位中に帝国国境の巡察を積極的に行い、リメスと呼ばれる防壁を建設している。これに従軍したローマ軍にとって、ライン川やドナウ川流域、またブリタニアと呼ばれた現代のイギリスで「ビール」は非常に重要な兵糧のひとつとなった。実際、「アウジリアス」と呼ばれたローマの同盟国の兵士たちのビールの消費が大きく、やがてローマ軍全体にビールの飲用が広がったとされている。

また、ローマ化が著しく進んでいたガリア(現代のフランス)も、本国の影響でワインが普及したのちもビールは非常に愛されていたようだ。フランス南部リエでは、一篤志家から庶民にビールがふるまわれた記録が残るほか、オータンにも「かわいい人よ、ビールを注いで」という落書きが残っている。


  1. Sachiko Izawa
  2. *Discovery認定コントリビューター
  3. イタリア在住ライター。執筆分野は、アート、歴史、食文化、サイエンスなどなど。装丁が気に入った本は、とりあえず手に入れないと気持ちが落ち着かない書籍マニア。最近のひとめぼれは、『ルーカ・パチョーリの算数ゲーム』。@cucciola1007



Text by Discovery編集部

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