【東京モーターショー2017】三菱自動車のV字回復をうらなう2台のSUV
2017.11.02
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三菱自動車は、東京モーターショーで新しいブランドメッセージを発表した。“Drive your Ambition”。あえて意訳すれば「野心を喚び起こせ」ということになろうか。そんな言葉がしっくりくる、三菱らしいコンセプトカーが『MITSUBISHI e-EVOLUTION CONCEPT』だ。
三菱自動車の“野心的な試み”なぜ三菱らしいのか。
このコンセプトカーが登場したバックグラウンドを説明しておきたい。
三菱自動車には貴重なヘリテージがある。まず『パジェロ』だ。いままさに世界中でSUVがブームであるが、その元祖というべきクルマがこのパジェロなのだ。1980年代に登場したパジェロは、乗用車の快適さをもつクロスカントリー4WD、という価値観を提示し、市場に旋風を巻き起こした。「パリ=ダカールラリー」で優勝を重ねるごとに、欧州での知名度も高まっていき、各国の自動車メーカーに少なからぬ影響を与えたのだ。やがてそれは“SUV”というジャンルとして確立し、世界中に広がっていった。三菱にはその当時からの経験があるのだ。
そしてもうひとつ。『i-MiEV』をヘリテージとして紹介したい。リチウムイオンバッテリーを搭載した世界初の量産型ピュアEVだ。今でこそEVと言えば多くのメーカーが量産しているが、三菱がi-MiEVを発売したのは2009年。リチウムイオンバッテリーは、その性能の高さから車載での利用が期待されていた。それを、野心的な試みによって最初に実現したのが、三菱自動車なのだ。そして今、世界中のEVがリチウムイオンバッテリーを搭載している。このように“SUV”と“EV”という2つの大きなヘリテージを持つ三菱自動車が、今回のモーターショーに合わせて提案するのが、EVのSUVであるコンセプトカー、e-エボリューションというわけだ。
『MITSUBISHI e-EVOLUTION CONCEPT』誕生のいきさつ
『MITSUBISHI e-EVOLUTION CONCEPT』が誕生したいきさつを、同社EV・パワートレイン技術開発本部チーフテクノロジーエンジニアの百瀬信夫氏に聞いた。
三菱自動車 EV・パワートレイン技術開発本部チーフテクノロジーエンジニア 百瀬信夫氏
「ヘリテージを商品として伸ばしていくときに、やはり三菱にはEVとSUVの経験がある、と考えました。“e-EVOLUTION”とは、EVのエボリューション。EV技術を使ってSUVの新しい価値をつくっていこう、ということです。やはりSUVには、荷物をたくさん積んで、いつでもどこへでも制限なく行けるという価値があります」
「そして、SUVの力強さは残しながら、SUVはうるさい、ディーゼルで排ガスが汚い、といったイメージをEVによってクリーンにする。魅力を高め、弱いところは補うことができると考えたのです」
確かにSUVとEVという組み合わせは、三菱のノウハウが活かせる形だ。だが今、世界はSUVブームでありEVブームである。進境著しい中国メーカーも、こぞってこの組み合わせを発表している。三菱にはどのような差別化ができるのだろうか。
「三菱自動車にはEVだけでなく、PHEVも含めて、長年培ってきたさまざまな経験があります。ただSUVとEVを組み合わせれば何でもいいというわけではありません。大型のSUVは、PHEVにしないと航続距離を確保できないでしょう。“e-EVOLUTION”は、EVとSUVの組み合わせだからこそ、コンパクトですし、さらに航続距離を延ばすために空力性能を高め、低いルーフを採用しています。この大きさ、デザインにも意味があるのです」と百瀬氏は説明する。
“e-EVOLUTION”の実車を目の前にすると、これらの百瀬氏の説明がしっくりくる。気が早いようだが、いつ発売されるのか聞いてみた。
「“e-EVOLUTION”はテクニカルプロトタイプなので、このクルマが何年後に出る、というのは今は答えにくいですが、このクルマに使われている技術のいくつかは、近い将来皆さんにお届けできると思っています」
“e-EVOLUTION”は三菱の技術のショーケース
“e-EVOLUTION”を技術面から見ていこう。まずパワートレインは、フロントに1基のモーターと、リヤに2基のモーターを搭載する。リアのモーターは、左右のトルク配分を自由に制御可能な「デュアルモーターAYC(AYC:アクティブヨーコントロール)」とする。これら3基のモーターによって、前後左右の駆動力を自由自在にコントロールすることができる。
MITSUBISHI e-EVOLUTION CONCEPT
技術的なトピックはもうひとつ。ブレーキキャリパーの電動化だ。コンベンショナルな自動車には油圧のブレーキ系統があるが、EVに油圧系統を載せるのは効率的とは言えない。パワーステアリングも油圧から電動に移行するなか、EVにおいてはブレーキの電動化も既定路線だ。
同社EV・パワートレイン技術開発本部 チーフテクノロジーエンジニアで、工学博士の澤瀬薫氏に、SUVをEVで作ることの難しさについて聞いた。
三菱自動車 EV・パワートレイン技術開発本部 チーフテクノロジーエンジニア 澤瀬薫氏(工学博士)
「実は、SUVとEVというのは優れた組み合わせなのです。EVはモーターで走りますので、ゼロ回転から最大トルクが出ます。荒れた路面でも低速からしっかりとした駆動力を出せるのがメリットです」
なるほど、アクセルの踏み込みに対して、瞬時に強い駆動力を発揮するEVは、SUVに向いているというのだ。
「“e-EVOLUTION”は、フロントのモーターと、さらに、リアに搭載する左右のモーターによって、モーターの応答性の良さ、制御精度の高さを活かして、日常の走行シーンでも、ステアリングやアクセルの操作に対して忠実にレスポンス良く反応します。加速や減速、カーブという場面において、操作に対する遅延がまったく無いので、誰でも思ったように走らせることができます。これがEVたる最大のメリットです」
また澤瀬氏は、電動ブレーキのメリットについても力説する。
「ブレーキキャリパーは通常油圧で動かしていますが、これをモーターで動かすことによって、ものすごく緻密で応答性のいいブレーキになります。ドライバーのブレーキ操作にも遅れなく追従する、車を操る喜びを誰でも味わうことができます」
そして、“e-EVOLUTION”のもう一つの技術提案であるAI制御についても聞いた。
「“e-EVOLUTION”は2020年以降のエンジニアリング技術を表現していますので、自動運転に利用されるセンシング技術をつかって、自分で操る喜びを味わっていただく提案をしています。例えばラフロードを走るとき、変化する道路環境においても理想の走行ラインをAIで解析したり、コーナー手前のブレーキングポイントを解析し、ヘッドアップディスプレイにAR表示してドライバーに伝えるなど、AIと自動運転の技術を組み合わせてドライバーに提供する提案になっています」
“e-EVOLUTION”は、EVの要素技術を活用して、意のままに走るSUVに仕立て上げ、AIや自動運転技術によって操る喜びをドライバーに提供する。まさに三菱ならではの技術、経験値が詰め込まれたコンセプトカーだ。
新しい“三菱”の第一歩
まもなく日本市場でも発売されるニューモデル、『エクリプス クロス』も紹介したい。
三菱エクリプス クロス
もともと三菱自動車は、『エクリプス』というスポーツカーをラインナップしていた。北米を中心に人気を誇ったモデルだが、今回、スポーティーなSUV=クロスオーバーSUVとなる『エクリプス クロス』で、その名前が復活した格好だ。
このモデルは、ただのニューモデルではない。益子修CEOが、「成長軌道への第一歩」と位置づける重要な意味を持つ。同社チーフ・プロダクト・スペシャリストの林祐一郎氏に、『エクリプスクロス』の開発のコンセプトについて聞いた。
「三菱が得意とするSUVの走行性能、それにスタイリッシュクーペの世界観を融合させるという企画で開発がスタートしました。『エクリプス クロス』は、企画開発は国内ですが、グローバルで販売するモデルです。まずは今月のはじめから欧州向けの出荷が始まりました。日本国内では、今年度中に販売開始という計画を立てています」
なるほど、『エクリプス クロス』の日本デビューが、このタイミングである東京モーターショーになったわけだ。そして同時に、三菱自動車のブランドメッセージが“Drive your Ambition”に一新されたタイミングでもある。そんなメッセージが『エクリプス クロス』にも込められている。
「見ていただくと分かる通り、乗っていただく方がワクワクするようなスタイリングです。どこかに出かけたい気持ちになってもらいたいと思います。SUVの性能はしっかり備えているので、どこへでも安心して行くことができます。ですので、今まで行ったことのないところにも行ってみようと、一歩先に踏み出していただきたい、という気持ちを込めたクルマです」と林氏はアピールする。
実車を目の前にすると、これまでの三菱車のイメージにはないリアのスタイリングが印象的だ。林氏は語る。
三菱自動車 チーフ・プロダクト・スペシャリスト 林祐一郎氏
「サイドシルエットがウェッジドシェイプのクーペフォルムになっています。サイドのキャラクターラインが切れ上がって、それにつながってリアのテールランプが非常に高い位置に来ているのがデザインの特徴です。リアがハイデッキになると後方の視認性が悪化しますが、リアに2段ガラスを採用して視認性を確保しています。特徴的なリアスタイリングであると同時に、運転のしやすい視認性も確保しました」
フレッシュなのはスタイリングにとどまらない。パワートレインも一新されている。
「新開発のダウンサイジングターボを搭載しました。1.5リットル直噴ターボにCVTを組み合わせました。そして上位グレードとして、2.2リットルディーゼルターボと8速ATを後から追加する予定です」とのことだ。
スマートフォンを車内で“安全・快適”に活用
さらに、ぜひトピックとして取り上げたいのが、CarPlay/AndroidAutoの両方に対応したAVユニットだ。『エクリプス クロス』では、スマートフォンの利便性を車内で快適に利用できる工夫が凝らされている。
「AVユニットは、インパネの真ん中に独立したディスプレイがあるデザインです。AndroidAutoとCarPlayに対応して、スマートフォンのアプリをディスプレイに表示することができます。操作に関しては、フロアコンソールの真ん中にタッチパッドがあり、スマートフォンを使うような感覚でタッチしてメニューを選び、プッシュ操作で決定、という操作がスムーズにできるように工夫しました」
スマートフォンの置き場所や充電についても困っている人は多いだろう。そこにも配慮がある。「フロアコンソールの一番前にスマートフォンを置くトレイがあり、USBポートを用意しました。ポートにつなぐと自動的にスマートフォンと連携します」
イメージカラーは新開発のレッド
エクリプスクロスのターゲットユーザーは、好奇心旺盛で、自分なりのスタイルを常に探求するアクティブ層だ。
「どこにでも安心して行けるSUV性能や、スマートフォンと連携したインフォテイメントでスマートに行きたいところを探して、今まで行ったことのないところに行ってみよう、という使い方をイメージしています。イメージカラーのレッドも、このクルマのスタイリングが一番きれいに見える色です。この色を見てワクワク感をもって、どこかへ出かけたいという気持ちになってもらいたいと思います」と林氏はアピールする。
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Text by Discovery編集部
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