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人はテレパシーでお互いを理解できるのか

2018.09.11

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コミュニケーションには不具合がつきものだ。

一対一で話していても、こちらが意図したことが相手に伝わらないことはままある。また、手紙、メール、SNSなどのやりとりに関しても、ちょっとしたズレがトラブルを招いてしまう危うさを、誰もが経験している。

話し言葉でも、書き言葉でも、「言葉」に象徴される概念をやりとりして成り立っている言語的コミュニケーションには限界がある。なぜなら、その「言葉」が表しているはずの概念の理解がそもそも一致していなかったり、勘違い・聞き違い・思い違いが大きな誤解を生むことが多々あるからだ。

ましてや、同じ言語を共有し、同じ文化圏内で生活する人同士のコミュニケーションにも問題が生じるのであれば、異文化間の交流に伴うズレや誤解はもはや避けて通れない。そのような誤解は本来ダイバーシティの表れでもあるのだが、話し合いがされないまま誤解の溝がどんどん深まっていくと、やがて敵対心を煽り、争いごとを招いてしまいかねない。

では、言葉が他者の理解への妨げとなってしまうのなら、いっそのこと脳と脳を直接つないでコミュニケーションが取れたらどうだろう?

テレパシーとは

たとえば、テレパシー。人の心の中で思ったこと、考えた内容が、直接ほかの人の心の中に伝達される、双方向性を持った五感に頼らないコミュニケーション手段とされる。「思念」、「精神感応」とも呼ばれ、古くから一種の超能力として信じる人もいれば、科学的に証明されていないため信じない人もいた。

親友同士がまったく同じタイミングで同じ内容のメールを送信し合ったり、家族の体調の不具合を遠方から察して駆けつける…、このような事例は多数報告されており、日本では「虫の知らせ」とも表現される。


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ある双子は、幼い頃から言語を使わずに互いと意思疎通を図れたため、幼児期の言語習得に著しく遅れが出たとその母親から聞いたこともある。

もし、このような能力がテクノロジーによって手に入るのなら、人間同士のコミュニケーションがもっと円滑になるはず――そんな目標を掲げて研究に勤しんでいる科学者たちがいる。

これもテレパシー?B2Bコミュニケーション

ハーバード大学医学部の教授らが2014年に行った実験では、インターネットを経由して人の脳から脳へと直接情報を伝達することに成功したそうだ。


Credit: Grau, et al. via PLOS One


実験では、情報の送信者となった一人がまずニューラル・インターフェースに接続された。Wiredによれば、ニューラル・インターフェースとは、送信者の脳の電気活動をコンピューターによって読み取り、その情報を義手や義足といった機械的なユニットに命令を与えるのに利用されるテクノロジー。手足を失くした人が、思考で操作することができるロボットアームなどに使われている。

このようにニューラル・インターフェース接続された状態で、送信者はふたつのあいさつの言葉を「0」と「1」の2進コードに変換して送信した。この際、「1」は手を動かし、「0」は足を動かす、といったように体を使うことで脳内の神経インパルスを活性化し、この脳活動を一種の神経コードとして送った。


Credit: Grau et al. via PLOS One


遠距離を隔てたフランスとインドにいた受信者は、それぞれ別のニューラル・インターフェースを経由してインターネットにつながり、神経コードを受信した。神経コードは直接受信者たちの大脳皮質に磁気の刺激として伝わり、刺激に応じて脳の中に引き起こされる信号を読み取ることによって、メッセージを解読したそうだ。

脳から脳へと直接情報を伝達するという意味の、「brain-to-brain communication(B2B)」と呼ばれるものに相当する実験だった。

「電脳化」は世界に平和をもたらすのか

送信者がメッセージを送る際に利用したテクノロジーを総称して「brain computer interface(BCI)」と呼ぶ。そして、受信者がメッセージを受け取る際に利用したテクノロジーは「computer brain interface (CBI)」と呼ばれる。

どちらも、いわゆる「電脳化」につながるテクノロジーだ。

さらに、テレパシーの一歩先を見据えて、いずれはCBIを通じてコンピューターやAIから脳が直接情報を得るテクノロジーを目指しているのは、イーロン・マスク氏率いるNeuralink社や、起業家メアリー・ルー・ジェプセン氏率いるOpenwater社だ。

これらのテクノロジーが結実すれば、そう遠くない未来に、人の脳がコンピューター回線を通じて直接会話できるようになるかもしれない。

しかし、直接脳と脳同士が語り合えば、誤解や争いを完全に防ぐことはできるのだろうか。答えは、多くのサイエンスフィクション作品が既に描き出してきている。


  1. 山田ちとら
  2. *Discovery認定コントリビューター
  3. 日英バイリンガルライター。主に自然科学系の記事を執筆するかたわら、幅広いテーマの取材とインタビューにも挑戦している。大学時代に断崖絶壁に咲く青いケシの花に憧れてネパールへ留学するも、ケシを見つけられないどころかトレッキング中トラブルばかりに見舞われて結局植物学から文化人類学へ転向。人間と自然の相互作用が研究テーマ。https://chitrayamada.com/


Text by Discovery編集部

関連リンク
「テレパシー」を科学的に実現することに成功:ハーヴァード大研究者たち (Wired)
Conscious Brain-to-Brain Communication in Humans Using Non-Invasive Technologies (PLOS One)
「電脳化」の実現を目指しているのは、イーロン・マスクだけじゃない (Wired)
5 Neuroscience Experts Weigh in on Elon Musk's Mysterious "Neural Lace" Company (IEEE Spectrum)

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